COLUMN

海の香り、水の菓子

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穏やかな波間に、たくさんの島々が浮かぶ、瀬戸内海。
香川に住んでいると、おなじみの風景ですが、
夕暮れ時は、美しい色に心打たれることがあります。
淡い黄色の砂浜も、やさしい色でほっとしますね。

静かな波打ち際を歩いていると、赤や緑の海藻が波に洗われて、
きらきら輝いているのを、よく見かけます。
なかにはきっと、食べられる海藻もあることでしょう。

トコロテンや寒天の原料になるテングサも、海藻です。
ある日、友人が、漁師さんからたくさんもらったので...と、
乾燥テングサを、おすそ分けしてくれました。

初めて見る乾燥テングサは、驚くほど美しい色!
淡いベージュのなかに、ところどころ紅色が混じっています。
何度も洗っては、天日で干すことを繰り返すうち、
太陽の光で色が抜けて、こんなきれいな色になるんですね。

乾燥テングサは、一晩、たっぷりの水につけておいて、
強火でしばらく煮立て、濾した液体を置いておくと、
ぷるぷるっとした、やわらかな固体になります。

ゼラチンと違って、常温で固まるのが特徴。
古来より、凝固剤として使われていたそうで、
海藻にこんな力があるなんて、不思議な気がします。

これを、トコロテン突きで突いて、細長くしたのがトコロテン。
和菓子などの原料になる乾燥寒天は、
適当な大きさに切り、凍らせてから乾燥させたものです。

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テングサの煮汁を固めたものは、ほのかに潮の香りがします。
香川では、トコロテンは酢醤油で食べるのが一般的ですが、
四角く切って、黒蜜やメープルシロップをかけると、甘いデザートに。

ほの甘いシロップと、冷たくてつるんとしたテングサの寒天。
甘さのなかに、潮の香りが混じり合うのは、
意外な組み合わせですが、クセになるおいしさです。

もしも、テングサの寒天が余ってしまったら、
小鍋に砂糖と一緒に入れて煮溶かし、
オレンジジュースや牛乳を加えて固めると、
きれいな色の寒天ができます。

潮の香りは消えてしまいますが、
子どもには、こちらのほうが喜ばれるかもしれません。
「このデザートは、海藻からつくったのよ」
といったら、どんな顔をするでしょうか。

実際に、乾燥テングサからつくるところを見れば、
きっと目を輝かせて、見入ることでしょう。
自然の不思議は、いろんなところにありますね。

まだ暑さの残る、秋の初めの9月。
テングサをゆっくり煮て、寒天をつくります。
目を閉じて、海の香りのお菓子を口にすると、
夏の思い出が、まぶたに浮かぶようです。


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