庭の花を摘んで...
まだ若く、都会で生活をしていた頃、
"庭から花を摘んで、部屋に飾る"
という暮らしに、とても憧れていました。
イングリッシュ・ガーデンが、
日本に紹介され始めたばかりの頃で、
色とりどりの草花が、風に揺れる自然な姿に、
とても魅了されたのを、覚えています。
ガーデニング雑誌には、
庭で育てた花を、とても素敵にいける、
英国在住の日本女性の連載があって、
それを読むのが、とても楽しみでした。
自分の人生は、まだ始まっていない、
と思うほど若いうちは、憧れは無限大で、
いつかはそれが、手に入るような気がしています。
けれど、それを現実にしたい、と思うときには、
手に入らないものに気づいて、悲しくなることも。
雑誌に出てくる、"素敵な花の庭"を持つ人々は、
外国に住んでいたり、広大な庭を持っていたり、
別荘暮らしをしているような人たちばかりで、
どこか、遠い世界のことのようでした。
それでも、住宅地のなかの、小さな庭に、
種をまいてみました。
夏は日ざしが強く、冬は隣家の陰になる場所で、
草花にとっては、よい環境ではなさそうでしたが、
昔、あまり日の射さない空き地に、
ハナダイコン(紫花菜)が群生していたのを思い出し、
その種を、庭木の下に、ぱらぱらとまいてみたのです。
秋にまいた種は、すくすくと育ち、
春には、きれいな紫色の花を、たくさん咲かせてくれました。
薄暗かった庭に、ぱっと咲いた花の、きれいだったこと!
それからというもの、いろんな種をまき、苗を植え、
失敗しながら、庭にあう植物を探し、育てる日々。
いつのまにか、花が増えてきて、
春から初夏にかけての、花の多い時期には、
朝、庭の花を摘んで、花瓶にさすのが日課です。
雑誌に出てくるような、華やかな庭ではなく、
アレンジメントも自己流ですが、
大事に育てた花を、ちょっとだけ摘んで、
部屋の中に飾ると、幸せな気持ちになります。
外の庭と、部屋の中がつながり、
空間も、こころも、広々としてくる感じがするのです。
小さな家や、小さな庭にこそ、
花や草木が必要なのかもしれません。
それはきっと、住む人の心を、
やさしく、うるおしてくれるでしょうから。
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