「いい家だなあ」――あの日、引き渡しの帰り際に、ご主人がぽつりとこぼしたひと言。
あれから10年。
自然素材に包まれた住まいは、時とともに味わいを増し、今も静かに、その姿をとどめています。
家を建てたのは、子育ての真っ只中。
当時まだ幼かったお子さまは、今では大学生になり、県外へ。
今はご夫婦ふたりで、穏やかな時間をゆったりと過ごされています。
思えば、すべての始まりは、ある日ふらりと出かけた散歩でした。
soraiとの打ち合わせを終えた帰り道、何気なく歩いたその途中で――
ふと目に留まった、ひと区画の空き地。
「ここ、なんだかいいね」
そんな何気ないひと言が、現在の住まいへとつながっていったのです。
土地との偶然の出会いが、これからの暮らしを大きく動かしていきました。
それまで暮らしていたのは、受け継いだ築25年以上の古いお家。
玄関や書斎、庭は広くとられている一方で、居間や台所、洗面所は細かく区切られ、動きにくいつくりでした。
愛着はあるものの、共働きの忙しい毎日には、小さなストレスが少しずつ積み重なっていったといいます。
そしてもうひとつ、大切にしたのが、お子様のアレルギー体質への配慮。
化学物質を極力使わず、自然素材がもたらす澄んだ空気の中で、安心して子育てができる住まいを。
本物の自然素材を使うことで、空気や肌に触れるすべてにやさしさを求めました。
そんな中で、おふたりが次の住まいに望んだのは、家事動線が整い、心にゆとりをもたらす家でした。
たとえば――
駐車場からパントリー、キッチン、リビング、玄関、そしてまた駐車場へ。
キッチンからダイニング、洗面室、脱衣・物干しスペース、そして再びキッチンへ。
ぐるりと回遊できる動線は、暮らしに優しく寄り添います。
「最初にノートに希望をいっぱい書いて、あとはお任せしました」
そう話すご夫婦は、「建築士さんが、私たち以上に私たちの暮らしを思い描いてくださった」と、今も感謝を口にされます。
キッチンの通路は、ふたりで並んで立ってもゆとりのある広さに。
同時に、同じ空間にいながらも、それぞれが心地よく過ごせるよう、パーソナルスペースも大切に設計されています。
奥さまのスペースは、キッチン背面に造作された収納棚と、その隣の小さなデスクスペース。
お気に入りの器や道具、料理本が心地よく収まるその空間には、整った美しさと、ほどよい抜け感があり、奥さまのセンスのよさが静かに光ります。
ご主人は、リビング横のデスクスペース。
お子さまが小さかった頃には、ここで一緒に宿題をしていたことも。
住まいのあちこちに、ご家族の記憶がそっと刻まれています。
そして今、新たなステージを迎えたおふたりの暮らしが、また静かにこの家に積み重なっていきます。
気づけば、家のこと、家族のこと、思い出の話が尽きることのないおふたり。
この住まいには、確かに「幸せ」が、しっかりと宿っています。