「完成がゴールではなく、ここがゼロ地点。暮らしの中で、少しずつ育てていきたいと思ったんです」
そんな想いをかたちにした、5人と1匹が暮らす、コンパクトな平屋。
もともと自然素材や無垢材の家に関心がありましたが、土地の入手後も建築は急いでいませんでした。
そんなある日、ふと訪れた完成見学会。
会場に漂う木の香り、しっとりと手になじむ無垢材の質感――
「これだ」と感じた瞬間から、おふたりの家づくりが動きはじめました。
建築士との丁寧な対話を重ねながら、少しずつ描かれていった理想の暮らし。
予算とのバランスをとりながらも、大切にしたいところにはしっかり想いを込めて、住まいの輪郭が形づくられていきました。
完成したのは、杉の無垢材をふんだんに使った、あたたかみのある平屋。
床と天井の無垢杉の板は貼る方向をそろえることで、空間に奥行きと統一感を生み、この家ならではの個性となっています。
家の中心には、薪ストーブが印象的なリビングダイニング。
家族と過ごす時間も、仕事に向き合う時間も、すべてがこの場所に包まれています。
庭では、子どもたちが遊び、流しそうめんや小さな菜園を楽しんだり、ときには30人近い友人が集まることも。
あえて選んだ杉材は、やわらかく、跡がつきやすい素材。
猫のひっかき傷、子どもたちの足音、日々の小さなシミ――
やわらかく傷がつきやすい素材だからこそ、暮らしの痕跡が“加点”となり、この家に時間を積み重ねていきます。
そんな風に住まいを育てていく姿勢が、このご家族らしさを物語っています。
ご主人のお気に入りは、日本瓦と塗り壁の重厚感ある外観。
どこか愛らしさも感じさせるその佇まいは、季節の移ろいとともに、少しずつ味わいを深めています。
家を考えるうえで大切にしたのは、「子ども部屋を主役にしない」という考え方。
個室は3部屋。「そのうち、誰かがリビングで寝るかもしれません(笑)」とご主人。
未来を見据えながらも、家族全員が長く心地よく過ごせる家を目指した、やさしい間取りです。
コンパクトながらもシンプルなつくりによる無駄のない、考えられた動線。
自然と家族の距離が近づき、日々の暮らしがより色鮮やかなものになっていきます。
暮らしの痕跡が、住まいを育てていく――
今日もこの家には、新しい“加点”が、そっと刻まれています。